Bird women

 屋上に、女子高生が二人。
「あたしは今、飛べる」
「ほう」
 ぶわっと吹いた風。
 羽のかわりに、髪とスカートが舞い踊った。
「飛べるのか、どうやって?」
「気合で。あと、根性」
 空は青く。
 地面は遠い。
「じゃあ、飛んでみろ」
「いや、それがさ、問題があるわけよ」
「なんだ生意気な、馬鹿のくせに」
「馬鹿ゆーな。根暗」
「根暗じゃない。クールだ、馬鹿」
「宅急便か、この野郎」
 校庭からは、がやがやと活気が届く。
 屋上だけは二人のもので、外からの声は届くものの、どこか遠い。
「いいかね、あたしは飛べるというが、ここでよくよく考えてみると、飛ぶ理由がないわけだ。鳥なんて考えてみたまえよ。やつらは飛ばないと生きていけない。歩いていちゃあ、ちょっと移動するだけで日が暮れるだろうし、そんなだと餌もとれないだろう。その点、人間の女子、ましてこのあたしなんて、飛ぶ理由がない。ふふーん、見たまえこの美貌。餌を求めて飛び回らなくとも、ほれほれ、向こうから寄り集まってきおるわ。じゃんじゃん貢ぐがいい、エロ男子高生どもよ」
「妄想はやめておけ。馬鹿だけで充分だ。それ以上は世間に迷惑だ」
 雲がゆっくり流れていく。
 言葉は素早い。
「思いついた。飛ぶ理由はあるぞ」
「ほほう、なんだね?」
「滑稽で間抜けな痛々しい馬鹿を見て、私が楽しい」
「待て。あたしは美しい馬鹿だ。間違えるな」
「馬鹿も否定しろ」
 白い雲に重なって、上空、白い鳥が旋回していた。
 二人、見上げる。太陽に目を細めながら。
「ちょうどいい。あれだ」
「そうだな、うん。あたしも唐揚げが食べたくなった」
「誰がそんなこと言うか。飛べるというなら、あの鳥のところまで行ってみろ」
「なんだと馬鹿を言うな。高所恐怖症のあたしが、あんな高いところまで飛べるわけないじゃないよ」
「馬鹿はお前だ」
 そこで、チャイムが鳴った。
 タイムオーバー。
「教室に戻るか。青木の先生は怒ると鬱陶しい」
「んだね」
 そう言って、唐突に、彼女はフェンスを乗り越えて、飛んだ。
 逆光の中に、黒くシルエット―――スカートの裾がひるがえり、スカーフが風になびいた、一人の少女の真っ黒な影。そんな切り抜きは一瞬で終わり、ぽんっと訪れたのはリアルな現実。
 空は青く、地面は遠い。
「おお、本当に飛びやがった」
 あはは―――と笑い声。
 こだました。
「やっぱり馬鹿だ」
 鳥のように、飛んでいた。
 笑い声と重なりあい、その飛ぶ姿は、えんえんとぐるぐると。